東京高等裁判所 昭和55年(う)1013号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
そこで調査検討すると、本件各被告事件等が東京地方裁判所に係属するに至つた経過は原判決が弁護人の主張に対する判断の項で判示するとおり概略次の経過であつたことが認められる。すなわち、(一)本件各被告事件は昭和五三年四月一六日千葉地方裁判所に公訴の提起がなされたが、同年六月三〇日検察官の請求により刑訴法一九条一項により事件を東京地方裁判所へ移送する旨の各決定がなされ、これらに対し弁護人から即時抗告がなされたところ、同年八月一五日東京高等裁判所において各抗告を棄却する旨の決定がなされて右移送の裁判が確定し、各事件が東京地方裁判所に係属するに至つたこと、(二)右移送の裁判において東京地方裁判所に右各事件の管轄があると認められた理由は、右各事件は当時千葉地方裁判所に係属していた伊藤みどりに対する兇器準備集合等被告事件等と刑訴法九条一項三号に当る関連事件であるところ、伊藤みどりらは東京都内に住居を有するものであるから、同人らに対する各被告事件については東京地方裁判所に管轄権があり、千葉地方裁判所においては刑訴法一九条一項により右各被告事件を東京地方裁判所に移送することとするので同裁判所は本件各被告事件についても併せてこれを管轄することができることとなるというものであつたこと、(三)一方、本件各被告事件は同年四月一六日千葉地方裁判所に公訴の提起がなされた氏名不詳者(逮捕番号成田警察署第二〇七七号)に対する兇器準備集合等被告事件と刑訴法九条一項二号に当る関連事件であるところ、右被告事件についても同年六月三〇日同裁判所において本件各被告事件と同趣旨の移送の裁判がなされ、右被告事件も本件各被告事件と同時に東京地方裁判所に係属するに至つたこと、(四)その後右氏名不詳者が谷川朋彦であり、同人はかねて東京都内に住居を有するものであることが判明したこと、以上の事実が本件記録上明らかである。
ところで、前示(一)の移送の裁判が、その理由とするところは、前記のとおり、本件各被告事件が伊藤みどりらに対する兇器準備集合等被告事件と刑訴法九条一項三号に当る関連事件であるとするにあるが、原判決言渡しの段階においても本件各被告人らと伊藤みどりらが同条項号の要件である「通謀して各別に罪を犯した」と言い得るかどうかは記録上必ずしも明確ではないけれども、前示のとおり右移送決定は抗告審の判断を経て確定し内容的にも拘束力を生じたのであり、移送を受けた東京地方裁判所はこれに拘束され、原則としてもはや再移送することは許されないから、原審裁判所が東京都に居住し、刑訴法二条一項により東京地方裁判所に管轄権のある伊藤みどりの前記兇器準備集合等被告事件と関連するものとして本件各被告事件について管轄権を有するとし訴訟を進行させたことに格別違法はないというべきである。
しかしながら、右移送の裁判は、証拠調等の実体審理に先立つて、主として書面審査により判断する決定手続によるから、同決定の際に、東京地方裁判所に管轄権があると認められ移送を適当とされた諸事情について、その後に移送を適当としなくなつた別の事情の存在が明らかになり、あるいは新にそれが発生するなど事情の変更の生ずることも否定できず、この場合には証拠調が開始されるまでは再移送も許されると解すべきであるところ、原審において被告人らは公判手続の冒頭からなおも前記移送決定の違法を主張しその限りでは確定裁判の確定力を無視する主張として失当であるが、なお右のいわゆる事情変更の有無について検討してみると、前示のとおり、本件各被告事件は同年四月一六日に千葉地方裁判所に公訴の提起がなされた氏名不詳者に対する兇器準備集合等被告事件と刑訴法九条一項二号の関連事件であり、右被告事件についても同年六月三〇日同裁判所において前同趣旨の移送の裁判がなされ、同被告事件も本件各被告事件と同時に東京地方裁判所に係属するに至つているところ、その後、氏名不詳とされていた谷川朋彦の住所、氏名等が判明した結果、もともと同人に対する前記事件については刑訴法二条一項により東京地方裁判所が管轄権を有し、同法六条により同人に対する右事件との関連事件としても本件各被告事件について東京地方裁判所が管轄権を有することが明らかとなり、結局前示移送決定の理由とされた事情に変更はなかつたというべきであるから、伊藤みどりに対する兇器準備集合等被告事件等との関連をさらに調査するまでもなく、右谷川朋彦に対する被告事件との関連で東京地方裁判所が管轄権を有すると認めた原判決の判断に誤りがあるとは認められない。
判旨もつとも、右谷川朋彦に対する被告事件については、右移送決定により東京地方裁判所に係属した後、同人が少年であることが判明したため同年九月一二日同裁判所において公訴棄却の判決がなされたことは所論のとおりであるが、同人に対する右事件の起訴は公訴棄却の判決のあるまでは適法として処理され、従つてその起訴を前提としてそれとの関連を理由とする移送決定もまた適法というべきであるのみならず、検察官はその後東京家庭裁判所による少年法二〇条の決定を受けて同年一〇月六日再び同人を全く同一の公訴事実で東京地方裁判所に起訴し、同事件は適法に同裁判所に係属するに至つたのであつて、その時点で同事件との関連管轄の存在が改めて明確にされたとすることもできるから、いずれにせよ、前記公訴棄却の判決を理由に、本件各被告事件についての右事件との関連管轄を否定すべきものとすることはできない。
所論は、さらに、刑訴法六条の管轄は固有の管轄事件と併合審判する場合に限り認められるべきものであるところ、谷川朋彦に対する兇器準備集合等被告事件は、本件各被告事件と併合審判されることがなかつたのであるから、東京地方裁判所は本件各被告事件について管轄権を有しない旨主張するので検討すると、刑訴法六条の立法趣旨は主として関連事件につき併合審判を行うことの利益を考慮し、これら事件を同一裁判所に係属させることを可能にするところにあり、従つて同条の管轄が成立するためには当該裁判所に固有の管轄権を有する事件と他の事件とが併合審判を含む同時審判の可能性がなければならないことはいうまでもないところではあるが、一方、同条は管轄、すなわち国法上の意味の裁判所に分配された抽象的な裁判権の行使について規定したものであり、併合審判か個別審判かというような具体的な訴訟手続上の問題に触れるものでないことはその文理に照らし明らかであり、また管轄成立の要件として併合審判が必要であるとの解釈を導くような手続規定もなく、他面関連事件について弁論の併合を適当とするかどうかは個々の事件の内容やその進行ないしそれに応じて推移する訴訟の具体的状況によつて左右されることが多く、併合審判の形態も多様であることなど弁論併合手続の流動的な性格に照らすと、本来一定の基準に従い恒常的なものとして設けられた管轄の存否を弁論の併合の有無にかゝらせるのはきわめて不合理というべきであるから、一般に併合審判を適当とすると認められることの多い関連事件については、同時審判の可能性のある限り、これを国法上の意味の同一裁判所に係属させ、各事件の審判に当る訴訟法上の意味の裁判所(裁判体)が、具体的な訴訟の状況に応じて弁論の併合の適否を判断しこれを円滑に実施しうる体制を整えることが、それら事件の迅速的確な処理上重要であり、また適切であるこ判旨とをも併せ考慮すると、刑訴法六条の管轄の成立するためには、数個の関連事件について同時審判の可能性があることを要するが、それらの事件が現実に併合審理されることを要件とするものではないと解するのが相当であり、この点について原判決が弁護人の主張に対する判断の項で詳細説示するところはいずれも正当である。所論はいずれもこれを容れることができない。
(千葉和郎 神田忠治 中野保昭)